
「出店するので、来てくださいね」。銀座のホステスからそう誘われて、鉢嶺は豊洲へ向かった。手元にあったのは、GOLD AREAのパスだ。肉の知識はほぼゼロの男が、肉を愛しすぎた人たちの祭典の、いちばんいい場所に通されることになる。
MEAT MANIA JAPAN ── 和牛とミートカルチャーを語る、肉のための一日

「MEAT MANIA JAPAN」は、EXILE SHOKICHIが企画・監修を手がける和牛特化型の焼肉フェスだ。会場は東京・豊洲のキラナガーデン豊洲。予約困難店から名店まで厳選した焼肉店が集結する。目的は、和牛の生産者とミートカルチャーへの関心を広げること。ファンや仲間が集う場をつくることも掲げている。
初開催は2024年で、約5,000人が来場した。2025年の第2回では、入場無料のFREEエリアが新たに加わった。テーマは、繁殖農家、肥育農家、卸業者、レストラン、そして食べ手へと続く「命のリレー」だ。横浜中華街の江戸清とコラボした限定試食会や、渡部建をMCに迎えた肉トークセッションも話題になった。プールサイドのDJブースでは、EXILE MAKIDAIらがイベントを盛り上げた。
3回目となる2026年は、10月17日(土)の11時から21時まで、雨天決行で開催された。掲げたのは「食を通して命のバトンを繋いでくれた方々への感謝」という理念だ。今年は全プランに飲み放題が付くという進化もあった。
肉を愛しすぎた男が育てた、肉の祭典
主催のSHOKICHIは、芸能界きっての「肉マニア」として知られる。2019年には自ら和牛を育てるプロジェクトを立ち上げ、生産者としても和牛の普及に取り組んできた。牛を飼い、全国の生産者を訪ね歩いた末に生まれたのが、このイベントだ。単なる食フェスではなく、肉が食卓に届くまでの物語を知ってもらう場でもある。
「この肉が、どんな人の手を経てここに来たのか」まで含めて味わうイベントなのだ。肉に関する認識が大きく更新される予感のする舞台だった。
3つのエリアと、肉への敬意が高い入場ルール
会場は大きく3つのエリアに分かれている。個室の「GOLD AREA」、「SILVER AREA」、そして入退場自由の「FREE AREA」だ。焼肉エリアは常設のグリルで肉を焼いて楽しむ形式で、事前購入制になっている。当日販売はなく、肉は12人前からの購入が条件だ。肉に対する本気度がうかがえるルールである。

FREEエリアには、キッチンカーや出店焼肉店の一品料理が並ぶ。気軽に立ち寄って肉を楽しむ層と、がっつり焼いて肉と向き合う層が、同じ会場に共存している。
鉢嶺の手元にあったのは、その中でも個室のGOLD AREAのパスだった。

招待してくれたのは、出店側のホステス
鉢嶺を誘ったのは、このイベントに出店していた、知り合いの銀座のホステスだった。夜の街で会う彼女が、今日は出店者の顔をしている。いつもは店で迎えられる側の鉢嶺が、この日は招待された客だ。
「来てくれたんですね。今日は私が案内する側です」
「肉の祭りで、お前が案内するのか」
「出店者ですから。ちゃんと準備してきました」
「俺はGOLD AREAのパスを渡されただけで、肉の知識は何も準備していない」
「知ってます。だから、パスだけ渡しました」
立場が入れ替わった途端に、これである。夜の街で培った鉢嶺の貫禄は、豊洲の青空の下ではまるで通用しなかった。
「和牛と牛肉って、何が違うんだ」
「……ここでそれを聞きます?」
「今日来た意味を、確認しておきたい」
「意味はあとで考えてください。まずは席についてください」
本日の主役は、あくまで出店者だ。鉢嶺は素直に従った。
GOLD AREAの個室で、肉と向き合う
案内されたGOLD AREAは、個室でゆったり肉を味わえる特別席だ。周囲のざわめきから少し距離を置き、常設のグリルで肉と向き合える。会場の熱気は伝わってくるのに、自分たちの空間は落ち着いている。
煙が立ちのぼり、肉の焼ける香りが鼻をくすぐる。鉢嶺の肉の知識は相変わらず「うまい」の一語に集約されていたが、この空間では、その一語で十分だった。
「ここ、いい席だな」
「いい席ですよ。ありがたく使ってください」
「ありがたく使う」
知識がなくても、いい席は誰にでも優しい。銀座で20年、いい席の価値を知っている男は、静かに頷いていた。
会場のシャンパンを、なぜか鉢嶺が入れる

肉が焼け始め、個室の空気がほぐれてきた頃のことだ。会場ではシャンパンも売られていた。ホステスは、メニューに目を落としながら、さらりと言った。
「鉢嶺さん、シャンパン、入れちゃいます?」
「俺が入れるのか」
「肉にはシャンパンです」
「今日は、招待された側のはずだが」
「だから、お礼に」
「逆ではないか」
「細かいことは、気にしないでください」
招待したのは彼女で、パスを用意されたのは鉢嶺のはずだった。それがいつの間にか、鉢嶺が会場のシャンパンを入れる流れになっている。理屈の通らない展開である。
もともと鉢嶺は、銀座のクラブで黒服として働き、今は自分でバーを経営している。「シャンパンを入れてください」と促されても、断る側の台詞は十分に知っている男だ。だがこの日は、その台詞が喉から出てこなかった。
「……わかった。入れる」
「ありがとうございます。さすがです」
承諾した瞬間、彼女の顔が一気に明るくなった。いつもの立場が入れ替わった、豊洲の夜である。グラスが運ばれてくると、肉の香りの中に、シャンパンの泡が弾ける音が重なった。
「肉と合いますね」
「……確かに、合う」
鉢嶺は、グラスを傾けながら思った。誘われた時点で、すでに勝負は決まっていたのかもしれない。
主催者との、記念の一枚
会場では、もうひとつ大きな出来事があった。イベントを企画・監修するEXILE SHOKICHIと、並んで記念撮影をしたのだ。
肉の祭典の主催者であり、和牛の生産者としても肉に向き合ってきた本人と、肉の知識がほぼゼロの鉢嶺が、同じフレームに収まっている。その構図だけで、すでに少し面白い。
撮影の場には、自然と柔らかい空気が流れていた。肩の力の抜けた、いい一枚になった。
「鉢嶺さん、今日一番仕事してます」
「肉の話では何も役に立っていないが」
「この写真で、全部チャラです」
肉の知識では完敗だった男が、写真一枚で名誉を挽回した。鉢嶺の表情は、いつもより少しだけ誇らしげだった。

まとめ
和牛の違いも、部位の名前も、結局ほとんど覚えられなかった。それでも、肉を愛する人たちが本気で集まる場には、知識の有無を超えた熱がある。招待してくれた出店側のホステスのおかげで、GOLD AREAの個室から会場の熱気を味わい、主催者と記念の一枚まで収められたのだから、鉢嶺にとっては十分すぎる収穫だ。
EXILE SHOKICHIが和牛の生産者として、そして最大のファンとして形にしたこのイベントは、「食べる側」が命のリレーの最後のランナーであることを教えてくれた。夜の街の人間は、招かれれば、どこへでも出向く。来年も開催されるなら、今度は和牛と牛肉の違いくらいは言えるようにしておきたい。たぶん。