「銀座の女に堕ちるわよ」|銀座の母に、ズバリ言われた夜

Netflixのドラマ「地獄に堕ちるわよ」のモデルである占い師・細木数子。

「あんた、地獄に堕ちるわよ!」の一言で2000年代のテレビを席巻したあの人物が、占い師になる前は銀座でクラブを経営する「銀座のママ」だったことは、知っている人も少なくない。

20歳で銀座にクラブを開き、最盛期には3軒の店に100人以上のホステスを抱えるまでになった女が、後に日本中を占いで震え上がらせた。そういう背景があるドラマを観たあと、「銀座の母」と呼ばれる占い師がいるとなったら、行かない理由がなかった。


銀座の母 ── 横田淑惠、50年の鑑定歴

「銀座の母」として知られる横田淑惠は、昭和の時代から銀座で占いを続ける大ベテランだ。キャリアは50年を超え、これまでに数多くの有名人を鑑定してきた実績を持つ。テレビや雑誌など、メディアへの出演も多く、銀座という街に根を張り続けてきた存在感は別格だ。

店に入ると、壁一面に写真が貼られている。横田と肩を並べた有名人たちの顔が、所狭しと並んでいる。芸能人、経営者、政治家。ジャンルも世代も関係なく、あらゆる人間がここに座ってきたことを、その壁が無言で語っていた。実績を言葉で語る必要がない。壁を見れば、全部わかる。

鑑定料は30分5000円。予約なしで訪れる客も多く、銀座という土地柄や経歴を考えれば、むしろ良心的な価格設定といえる。


鑑定開始、銀座の母のペースに飲まれる

鉢嶺は銀座のホステスと同伴で店を訪れ、まず鉢嶺が鑑定を受けた。

横田淑惠は、急がない。動作がゆっくりで、話し始めるまでに間がある。昭和の時代から銀座で生きてきた人間の時間の流れ方というのは、こちらの体感速度とは別の軸で動いているようだった。ときおり昔の話が挟まり、ゴニョゴニョとした声で何かを言っている。「今のは何だったんだろう」と思いながら聞き流した言葉が、いくつかあった。

それでも、肝心なところはちゃんと届いた。

「あなた、ハマコーと一緒で怒りっぽいわよ」

ハマコーとは、かつて「浜田幸一」の愛称で知られた政治家だ。怒りっぽいキャラクターで有名だった人物の名前がいきなり出てきた。鉢嶺は何も言わなかった。

続いて「肝臓と虫歯に気をつけなさい」「飽き性ね」「女をコロコロ変えるタイプ」「食べるに困ることはないわ」と、テンポよく言葉が出てくる。どれも否定しにくいことばかりだった。

そして「性生活は変態ね」とひと言。

さすがに気になることがあり、鉢嶺は何か聞こうとした。横田淑惠がすかさず言った。

「聞かれたことだけ答えりゃいいんだよ」

質問する隙もなかった。


ホステスの番、鉢嶺に追撃

続いてホステスが鑑定を受けた。横田淑惠はしばらく手元を見てから、「仕事運はいいわよ」「お金には困らない」と静かに言葉を並べた。ホステスは「ありがとうございます」と笑顔で受け取っていた。

それを隣で聞きながら、鉢嶺は自分の番が終わってよかったと思った。

横田淑惠が鉢嶺に向き直った。

「あんた、銀座のホステスには気をつけなさい」

思わず鉢嶺は聞き返した。

「……どういう意味ですか」

「そのうちわかるわよ」

それ以上の説明はなかった。ゴニョゴニョとした声で何か付け加えていたが、聞き取れなかった。聞き返す空気でもなかった。隣のホステスは何も言わなかったが、口元が少し動いていた。笑っていたのか、何か言いかけていたのか、どちらかはわからなかった。


占いのあと、同伴へ

鑑定が終わったあと、そのままホステスの働くクラブへ向かった。同伴という体裁だが、「銀座の母に怒られた夜のあと」というのは、なかなかない前置きだと思った。席に座りグラスを受け取りながら、「ハマコーと一緒って言われた」と話したらホステスはしばらく笑い続けた。


まとめ

正直に言うと、30分の鑑定のうち、占いと呼べる時間はそう長くなかった。世間話が挟まり、昔話が入り、気づけば時間が経っていた。切り上げようとしても終わらない。鉢嶺が「そろそろ……」という空気を出しても、横田淑惠のペースは変わらなかった。

結局、時間通りには終わらなかった。30分には収まらなかったが、「5000円分占ってもらった」という感覚は、正直あまりなかった。

ただ、そこに文句を言うのも違う気がする。あの壁の写真、あのテンポ、あの「聞かれたことだけ答えりゃいいんだよ」。

時間通りに終わらなかったことも含めて、あれが30分5000円だと思えば、ひとつのエンタメとしては成立している。占いに答えを求めて行く場所ではなく、あの空間を体感しに行く場所だと割り切れる人間には、向いていると思う。