
『プラダを着た悪魔2』を観に行く。普通ならチケットを予約して終わりだ。
だが鉢嶺は違った。
鉢嶺は、この日のためだけに『プラダを着た悪魔』をイメージしたオーダースーツを仕立てた。ネクタイももちろんプラダだ。
さらに銀座のホステスを誘い、映画鑑賞同伴を企画。本人としては完璧な準備だった。
映画公開、そして同伴へ
2026年5月に公開された映画『プラダを着た悪魔2』。前作から20年を経て、ミランダとアンディが再びスクリーンに帰ってきた話題作だ。 その続編公開を知った鉢嶺は、「これは映画同伴をやるしかない」と思い立った。
そして声を掛けたのが、銀座のホステスだった。
「今度、『プラダを着た悪魔2』を観に行かないか」
映画同伴の誘いは成立。
ところが前日になると、鉢嶺は必要以上に気合いが入る。
「俺はプラダのネクタイで行く」
「はい」
「プラダだからな」
「分かってます」
「一応言っておくが、プラダだ」
もはや確認ではなく念押しである。映画を誰よりも楽しみにしていたのは、間違いなく鉢嶺だった。
プラダを着た二人

当日、目の前に現れたホステスの姿を見て鉢嶺は少し驚く。
彼女はプラダのドレスを着ていた。
「ちゃんと合わせてきましたよ」
そう言って微笑む。
一方の鉢嶺も負けていない。宣言通りプラダのネクタイ、さらに『プラダを着た悪魔』をイメージして仕立てた自社製オーダースーツ。
本人としては万全である。だが客観的に見ると、映画の公開に浮かれているだけの鉢嶺だった。
109シネマズプレミアム新宿で味わう特別な映画体験

今回二人が訪れたのは、東急歌舞伎町タワー内にある109シネマズプレミアム新宿。一般的なシネマコンプレックスとは一線を画す、“映画体験そのもの”を売りにした映画館だ。
館内へ入るとまず目に入るのは専用ラウンジ。上映開始までソファでゆったりと過ごすことができ、ドリンクやポップコーンも用意されている。
シアター内は全席がプレミアムシート仕様。前後左右にゆとりがあり、長時間の上映でも疲れにくい設計になっている。音響面にも強いこだわりがあり、音楽家・坂本龍一氏が監修した音響システムを導入。

映画館というより、高級ホテルのラウンジとプライベートシアターを組み合わせたような空間だ。
「こんな映画館あるんですね」
ホステスが周囲を見回しながら言う。
「今日は作品も主役だが、映画館も主役だからな」
鉢嶺は満足そうにうなずく。上映前から、すでに特別な時間は始まっていた。
上映前から振り回される

ラウンジで上映開始を待つ。ホステスは鉢嶺そっちのけで館内を見回している。
「この映画館すごいですね」
「だろう。今日は作品も映画館も一流だ」
得意げな鉢嶺。すると彼女は言う。
「でも私、前作見たのだいぶ前だからあまり覚えてないんですよね」
鉢嶺、軽くショック。
前日からあれだけ熱弁していたのに、温度差がある。
しかし上映が始まると、彼女もしっかり作品に引き込まれていた。
映画終了後、そしてプラダを着た小悪魔

上映後、二人は映画の余韻を残したまま新宿を後にし、そのままホステスの働く店へ向かった。席に着くと、話題は当然『プラダを着た悪魔2』になる。
映画談義に花を咲かせながら、グラスを重ねる。
ところが——
気が付けば、空いたグラスは次々と補充されていた。
「今日は映画も良かったですし、乾杯しましょう」
「そうだな」
乾杯。
しばらくすると、
「せっかくだから、これも飲みません?」
また乾杯。さらに、
「このシャンパン、美味しいですよ」
また乾杯。
映画の感想を語っていたはずが、いつの間にかテーブルにはシャンパンが並んでいた。
「今日は飲みますね」
ホステスが笑う。
「いや、君が飲ませているんだろう」
そう返す頃には、すでに彼女のペースだった。甘い言葉に気分を良くし、勧められるままグラスを空ける。
そして気が付けば、
「じゃあ、もう一本」
自らシャンパンを注文していた。
この日の主役は映画だったはずだ。だが振り返ってみると、前日からプラダを連呼していた鉢嶺も、プラダのドレスで現れたホステスも、すべてこの展開への前振りだったように思えてくる。
帰り際。
「今日はありがとうございました」
そう微笑まれると、先ほどまでの出費のことなど少しどうでもよくなってしまう。
『プラダを着た悪魔2』を観に行ったはずなのに最後に出会ったのは、
プラダを着た“小悪魔”だった。