
ホテルの4階、エレベーターを降りて薄暗い廊下を進むと、その扉はあった。インターフォンを押すと、大柄な黒人スタッフがぬっと出てくる。ここが日本人向けのラウンジだと知らなければ、回れ右をしていたと思う。
港区(ミナト)── クアラルンプールにある日本人ラウンジ

「MINATO〜港区〜」は、マレーシアの首都クアラルンプールにある日本人向けのラウンジだ。東京の港区をモチーフとした名を掲げ、異国の地で日本式のナイトシーンを提供している。マレーシアはイスラム色の強い国で、日本のような夜の文化が根付いているわけではない。そんな土地で、日本人が日本語で飲めるこうした店は、駐在員や旅行者にとって一種のオアシスのような存在になっている。
特徴的なのは、在籍する女性の多くが日本人という点だ。留学やビザを取得して現地で生活しながら、夜はこの店で接客をしている。日本の銀座とはまた違う、独特の背景を持つキャストたちだ。
たどり着くまでが試練
鉢嶺がこの店を訪れたとき、まず面食らったのが入口までの道のりだった。
店が入っているのは、クアラルンプール市内の「ドーセットホテル」。外観だけ見れば、何の変哲もない都市型ホテルだ。

エントランスをくぐり、1階ロビーへ。この時点では、まだごく普通のホテルの光景である。

エレベーターで4階へ上がり、降りて進むと、そこに現れるのは何とも怪しげな扉。看板らしい看板もなく、初見の人間なら「本当にここで合っているのか」と不安になる佇まいだ。

意を決してインターフォンを鳴らすと、出てきたのは大柄な黒人スタッフ。日本のキャバクラの入口とは何もかもが違う。この時点で帰る人もいるのではないか、というのが鉢嶺の正直な感想だった。銀座で20年やってきた人間でも、ここの入口は少し身構える。
だが、扉の向こうは意外にも普通の——いや、しっかりと日本式のラウンジだった。
気づけば、盛り上がっていた
正直に言えば、鉢嶺は当初、そこまで長居するつもりはなかった。異国のラウンジの様子を少し見て、一杯飲んで帰ろう——そのくらいの軽い気持ちだった。
ところが、これが思いのほか楽しかった。海を渡ってこの地で暮らすキャストの女性たちは、それぞれに面白い経歴や渡航の理由を持っている。異国で頑張る同郷の若者たちと日本語で盛り上がるうち、時間の感覚はどんどん薄れていった。気づけばセットは自動延長され、グラスも進み、写真を撮り、また乾杯し——。
「もう一杯だけ」を何度か繰り返した頃には、当初の「軽く一杯」という予定は完全にどこかへ消えていた。そして楽しい時間には、当然ながら相応の代償が伴う。その事実を鉢嶺が思い知るのは、会計のときだった。
会計という名の衝撃 ── 現地価格のはずが
さて、この手の店で最も気になるのが会計だ。海外の日本人向け店舗は、時に日本以上の価格になることもある。鉢嶺が実際に支払った金額を、マレーシアの通貨リンギット(2026年7月時点で1リンギット=約40円換算)で見ていこう。
セット料は男性1名でワンセット500リンギット(約2万円)。この日は自動延長で2セット分となり、さらに10%のチャージが加わって1,100リンギット(約44,000円)。
オーダー料は、ウィスキーの「響」が1,850リンギット(約74,000円)、チャーム30リンギット(約1,200円)、割りもの12本で360リンギット(約14,400円)。合計2,240リンギット(約89,600円)。
ここにサービスチャージ10%と売上税8%が加算され、オーダー分だけで2,643.20リンギット(約105,720円)。
そして最終的なお支払い総額は——3,743.2リンギット(約149,728円)。

異国の地のラウンジで、日本円にして約15万円。物価の安いイメージがあるマレーシアだが、こと日本人向けのラウンジに関しては、その常識は通用しないらしい。「響」のボトルを入れた時点である程度は覚悟していたはずだが、それでも最終的な数字にはなかなかの手応えがあった。
まとめ
異国のホテルの片隅、怪しい扉の奥に広がっていたのは、紛れもなく日本の夜の空間だった。夜の世界は、国境を越えても本質的に変わらないのかもしれない。少なくとも、財布が軽くなる感覚だけは万国共通だった。