
「昔、“月読命(ツクヨミ)”っていう月の神様がいて、見えない月の気配を読む神様なんだ」
入口でそんな話を始めた鉢嶺に、隣の美人ホステスが笑った。
「それ、あなたの本のタイトルと似てない?」
「そう、『賢者らの月読記』っていう本。今夜は理屈抜きで、月を感じる方でいこうか」

この夜、東京・墨田区の向島百花園では、毎年恒例の「月見の会」が開催されていた。
江戸の風情を残す庭園が、月を愛でるために特別に夜まで開園される秋の行事だ。
空は一面の雲に覆われていたが、その合間から時おり月が顔を覗かせ、
淡い光を庭園に落としては、また静かに隠れていった。
雲の切れ間に浮かぶその一瞬の輝きこそ、この夜の主役だった。
この記事でわかること
- 向島百花園「月見の会」の実際の開催内容と雰囲気
- 曇り空でも楽しめる“月を読む”お月見の魅力
- 江戸情緒を感じる絵行灯・箏演奏・茶会の見どころ
- 現代人が“静かな時間”を味わえる夜の庭園体験
- 鉢嶺が語る「月読命」と著書『賢者らの月読記』の世界観
向島百花園「月見の会」とは
向島百花園の「月見の会」は、江戸時代から続く秋の風物詩。
毎年中秋の名月に合わせて数日間行われ、普段は17時までの開園が21時まで延長される。
園内には、俳句や浮世絵を描いた約50基の絵行灯が並び、日没後には幻想的な光景が広がる。
期間中は、篠笛や箏の生演奏、抹茶の茶会、新内流しなど、伝統文化に触れられる催しも行われる。
今年は10月5日から7日の3日間開催され、昼は「萩まつり」、夜は「月見の会」として、
昼夜で異なる趣の庭園を楽しむことができる。
【①】お供え式──静けさの中で始まる

17時、萩のトンネルを抜けると、藤棚の前で「お供え式」が始まっていた。

庭師たちが法被姿で並び、月見団子や里芋、柿、茄子など秋の恵みを丁寧に供える。
その所作に合わせて篠笛の音がゆっくりと流れ、空気が少しずつ柔らかくなっていく。
※お供え式
「こういう儀式って、静けさが完成してるよね」
鉢嶺が言うと、彼女が笑って返す。
「静けさが“完成”ってどういうこと?」
「たぶん、音も言葉もいらないってこと」
※お供え式での篠笛の演奏
まだ明るい雲に覆われた空を見上げると、薄く淡い光が微かにぼんやりと滲んでいた。
見えない月の輪郭を想像しながら、二人はしばらくその場に立ち尽くした。
【②】箏の音と絵行灯──曇り夜に浮かぶ江戸の灯り
日が落ちると、園内のあちこちで行灯が灯る。
俳句や北斎の絵を描いた約50基の絵行灯が石畳を照らし、雲の切れ間からこぼれる月明かりと溶け合う。
曇り空の夜にも、光の温かさがゆっくりと広がっていく。
「今日の主役は、行灯かもしれないな」
鉢嶺が言うと、彼女が笑った。
「月が聞いたら拗ねるよ」
「いいんだ。さっき少し顔出してくれたし、もう満足してるかも」
そんな軽口を交わしながら歩いていくと、売店前の四阿(あずまや)から箏の音が響いてきた。
地元の演奏団体「栗田社中」による生演奏だ。
音が風に乗って流れ、虫の声と混ざり合う。
雲間から再び月が姿を見せ、その光が箏の弦にわずかに反射した。
曇り夜の静けさの中で、光と音が寄り添うように心を照らしていた。
鉢嶺は空を見上げ、微笑みながら言った。
「こうして隠れたり出たりする方が、月も楽しそうだね」
【③】茶会と新内流し──“雲間の月”を味わう
園内奥の御成座敷では、お月見茶会が開かれていた。
抹茶と月をかたどった和菓子が出され、参加者はそれぞれ静かに一服を楽しんでいる。
「お茶って、味より“間”を楽しむものなんだね」
鉢嶺がそう言うと、彼女が笑う。
「あなたにしては珍しい発言」
「たまには“間”も味わえる男になりたいんだよ」
茶碗の中には、雲の切れ間から差す淡い光が揺れていた。
それはまるで、月がこっそり顔を覗かせたかのようだった。
また、翌日には「新内流し」も行われ、三味線と唄が園内を漂わせる。
月が見えなくても、音が空間を満たしていく――それがこの庭園の魔法だ。
雲の向こうにある月を読む

帰り道、二人は池のほとりで足を止めた。
水面には、雲の切れ間からこぼれた月の光がかすかに揺れている。
「さっきより、よく見えるね」
「ほんと。気まぐれに顔出すあたりが、月らしい」
「今日の月はシャイというより、駆け引き上手だな」
「あなたと似てるかも」
二人の笑い声が夜風に溶ける。
雲間からのぞく月を見上げながら、鉢嶺がぽつりと言った。
「完璧じゃない夜のほうが、味があるね」
光がまた雲に隠れる。
それでも池の水面は、ほんのり明るかった。
そのやわらかな明かりの中に、静かな美しさが息づいていた。
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記事監修者
CEO鉢嶺祐矢

銀座のナイトワーク業界で一線を画す存在として知られる株式会社ZENNO GROUPの代表取締役。銀座の高級クラブで14年間にわたり黒服として活躍し、その経験をもとに業界向けのさまざまなサービスを提供。非効率な業務体系を改善するため、株式会社ZENNO GROUPを創業し、業界の発展に貢献している。
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